看護婦 転職 東京が一目瞭然!

「福祉は住居にはじまり住居におわる」といわれる。
他の西欧諸国も似た状況にある。
たとえば、ある在宅福祉にかかわる全国集会は、おしめの取り換え分科会は超満員だが、住宅改造分科会は講師の数のほうが多かった。
保健に関する集会でも似たことがあった。
「健康と住宅」分科会への予定出席者のあまりの少なさに驚いた実行委員は、前夜、参加者の確保に走り回った。
それでも十数名の出席であった。
いずれも一〇〇〇人~五〇〇人規模の大集会で、筆者が直接目にしたことである。
日夜、寝たきり老人の世話などに苦労している保健・福祉関係者にとっては、直面する問題に関心があっまるのは当然であろう。
だがその苦労のなかにあるのが、日本社会の現実なのである。
決して彼女ら彼らが責められるべきではない。
その重要性が、高齢社会化やホームレス問題、阪神・淡路大震災などさまざまのかたちであらわになっている現在でも、なお認識をもちえないでいる。
そのようなことでは、これからの日本社会は支えられなくなるだろう。
住まいの充実こそは、二一世紀の課題と考えるべきである。
これまで「福祉」といえば、まず年金やヘルパーや老人ホームなどのお金やサービスや施設を思い浮かべるのが普通だった。
むろんそれも必要だが、超高齢社会に入る現代では何が求められているのか。
わたしは本書で、人間にふさわしい居住が、いのちの安全や健康や福祉や教育やほんとうの豊かさや人間としての尊厳を守る基礎であり、安心して生きる社会の基盤であることを述べようと思う。
多くの人びとの「居住」への関心の高揚に寄与できればと願っている。
住居は生存の基盤
テレビに登場する時代劇、たとえば水戸黄門の一行は年中旅をしている。
宿場につくとまず宿をさがす。
部屋に落ち着いて着がえ、湯あみする。
それから食事になる。
ときには山の中で道に迷い、灯りをたよりにひなびた貴家の片隅に一夜の宿をもとめることもある。
一行にとっては、まず雨露をしのぐことが先決である。
空腹を満たすのはそれからである。
だれかが山海の珍味をとどけてくれようと、野宿であれば、旅の疲れは癒せまい。
落ち着く宿があっての休息である。
いつの時代も同じである。
人は横穴をはってねぐらとし、縦穴をはって小屋を組み石やレンガを積んで住みかとした。
母の胎内から出て人としてこの世に生を受けたあと、雨風や暑さ寒さ、外敵から身を守ってくれるのは住居である。
また日々の疲れを癒し、労働の根拠地とし、家族が暮らし、子どもが成長し、お年寄りがこころ静かに憩えるのも、安心できる住まいがあってのことである。
ブラウン管の中で繰りひろげられるホームドラマも、たいていのシーンは住まいの中である。
食事をし、お茶を飲み、おしゃべりやケンカをし、眠り、愛し合う。
家がなければ、何事も始まらない。
人間の生活はひとロに「衣食住」によって成り立っている、といわれる。
だが「衣食」と「住」の間には大きな違いがある。
食物は直接からだをつくり生命を維持する。
衣服は寒さから身を守り、暮らしを彩り、気持ちに潤いをあたえる。
この二つに共通するのは、長短の差こそあれ消費的で個人的な生活手段ということである。
食物はすぐ消化されるし、衣服も個々人が身にまとう一種の消耗品である。
それにたいして住まいは、一般にこのような、それを直接消費して生命と生活を維持するというものではない。
住居という物理的な「居住空間」の存在が、いのちを守り、日々の生活行為の場を提供する。
衣食住のいずれが重要かということはいえない。
食べ物がなければ餓死するし、衣服がなければ寒さから身を守れない。
途上国の難民のように飢餓線上にあるのであれば、衣食の確保は緊急事項である。
だが、まともな食事も病いを癒すことも安息も、すべてはキャンプ(=住)に着いてからである。
日本の現状は、たとえは食糧自給率や農薬汚染その他の問題があるにせよ、暖衣飽食が繰りひろげられ、衣食に悩むということは基本的にない。
しかし住居に関しては、現代日本人の生きる上での不安、あるいは諸々の社会矛盾の根底に、その貧困と居住不安が横たわっているといわざるをえない。
「安心できる部屋」がほしいたとえば、日雇い労働者のまち大阪の釜ケ崎(正式にはあいりん地区)などの人たちには、このような事情がよく現れている。
ホームレスをなくそうという目標をかかげた国際居住年の一九八七年暮れ、わたしははじめて釜ケ崎の越冬パトロールに参加した。
地元のキリスト教団体、労働団体、ボランティアの人たちと一緒に、布団、毛布、おにぎり、みそ汁の入った魔法瓶などをリヤカーに績んで、深夜の冷えきったまちに出かけた。
路上、公園、潅木の茂みのそこかしこにうずくまり眠る姿がある。
布きれやダンボールにくるまっている者もいる。
上からそっと布団をかける。
「ひとりの凍死者も出すな」、これが目標である。
釜ケ崎は、年末になるとふだん以上ににぎわう。
北海道、九州、そのほか遠方の建設現場で働いていた労働者たちがもどってくる。
釜ケ崎でながく過ごした人たちには、ここが心の故郷なのである。
ふるさとの現実は、狭苦しいドヤ(木賃宿)やアオカン(野宿)で、労働の疲れ、ストレスは癒しがたい。
それでも「住人」はもどってくる。
もとの仲間に会うこと、住みなれたまちにもどってくることで心が安らぐのである。
先頭を歩いている案内役に声をかけた。
あとで分かったことだが、彼は地元の日雇い労働者の組合・釜日労の地域のリーダーで、ここに一〇年前から住んでいる。
「なにがあれば、この人たちの暮らしはよくなると考えますか。」「へや(住居)です。
最低六畳の広さと、一万五〇〇〇円ぐらいの家賃のへやが欲しい。よいへやだと心が安らぐのです。
だから金が入ると一晩だけドヤに泊まることがあります。
安心して住めるへやがいまのぼくらにいちばん必要です。」その夜はじめて会った彼は、わたしの専門はむろん職業など知らない。
その思いがけない言葉にドキリとした。
「安心できるへや」という言葉が胸にひびいた。
人間が生きていくうえでの住まいのもつ意味を、極限状態で生きる人びとから、あらためて教わる思いであった。
その後、わたしは毎年のように釜ケ崎を訪れることになる。
居住を保障しない国衆日本人はみな、この日本という国に身を寄せて生きている。
この国土に安心して住めるのでなければ、わたしたちは生きていけない。
その生存の基盤である居住が、いま脅かされている。
バブルの崩壊は、家と仕事のない人びとを大量につくりだした。
新宿駅周辺などをはじめ、全国各地にも新しい家なき仕事なき人たちの「ねぐら」がうまれた。
震災後の神戸などでもホームレスがめっきりふえた。
そしてこれは、特殊な人たちの問題ではない。
一九九六年六月、東京都大田区の多摩川河川敷には七二軒の小屋があった。
そこに住む人たちにたいして、東京都は立退き勧告と強制執行を行った。
住人の中には、倒産したり、借金とりに追われたり、家賃を払えなくなってやって来た元社長や専務もいた。
「Iさん(四九歳)は大手ゼネコンの下請け会社の社長だったが倒産し、川崎市内のマンションの家賃が払えなくなり、元社員ら五人と河川敷きに来た。
今も週二、三回仕事に出かける。
別の男性(五一歳)は市営住宅から河川敷きに移り住んで五年。
日曜日以外は仕事に出かける。
敷金がないのでアパートは借れない。

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